人間力が見えた素晴しいレース
ポルシェ919Hybridの洗練されたフォルムや、アウディR18 e-toron quattroの獰猛もスタイリングに比べると、よく言えばオーソドックスなトヨタがかっこよく見えた。
◆いいレースを観た。16日に富士スピードウェイで行なわれたWEC第7戦富士6時間。
◆スタンドから眺めたスタートは、スプリントのF1ほどでないにしても、心拍数が上がった。ルマンを除くと、常に予選5-6番手。ポルシェ919HybridとアウディR18 e-toron quattroにやられ続けていたトヨタTS050 HYBRIDが、富士ではヤレる期待が盛り上がっていたからだ。
◆不思議なことに、白地に赤と黒のトヨタTS050 HYBRIDが、富士ではかっこよく見えたのは、期待の現れだったかもしれない。
◆しかし、多くのレース、中でも耐久レースの常として、30分もするとなんとなくまったりムードになることになっている。今回も例に洩れなかった。
◆スタンドでスタートを観て、1時間ほどでメディアセンターに戻ったが、隣の仲間は、「退屈なので弁当を食っちゃった」、と言いながら、あと5時間をどう過ごすのか考えあぐねつつ、「面白いのは残り3分からだからね」と意味深なことを口走っていた。そして、その通りの展開になった。
◆ポルシェとアウディとトヨタの差は、今回は「ない」と言えた。いや、小林可夢偉は予選後に「いつも予選で1秒遅くても、レースになるとなんとかなっているから、明日はぶっちぎりのレースになるかも」と期待を煽ってくれた。
◆いつものように、予選と決勝のプログラムの考え方で、アウディとポルシェが一発タイムをひねり出しているなら、決勝のトヨタに期待しないわけにはいかなくなった。
◆ルマンをメインターゲットに仕立てられたトヨタTS050 HYBRIDは、他のコースで苦戦続きだったが、地元の富士でルマンと同じようなポテンシャルを発揮、土曜日午前中のフリー走行では、中嶋一貴が確認走行からいきなり連続走行に入ったそれも1周目に1時間のセッションの最速タイムをサクッと記録して、ここでも期待を加速していた。
◆二人のタイムの平均で競われるWECの予選システムで、アウディR18 e-toron quattro、ポルシェ919Hybrid、トヨタTS050 HYBRIDのオーダーになったけれど、その差は文字通りの僅差。
◆さらに、個別のタイムでは、小林可夢偉が1分23秒239で最速、2番手が、これまたトヨタTS050 HYBRIDのセバスチャン・ブエミの1分23秒482だった。つまり、今シーズンの展開から、レースでよくなるトヨタTS050 HYBRIDは、地元の富士で”かなりヤレそう”という期待より現実といえる状況が見えていた。
◆レースが始まってみると、3社のマシンは予選通りの拮抗した状況が見えてきた。スティントの長さは、ポルシェが最長、続いて、トヨタ、アウディの順のように見えたが、ここで差がつくほどのものではなかった。
◆ゴールまで45分のところで6 トヨタTS050 HYBRIDは、小林可夢偉を最後のピットに呼び、給油だけを行なって、ドライバーもそのままでコースに戻した。
◆この”ダブルスティント作戦”が、功を奏し、小林可夢偉は、すでにドライバー交替と給油を済ませていた8 アウディR18 e-toron quattroの前に出ることに成功した。
◆しかし、ダブルスティントの可夢偉は、タイヤが辛かった。「周回遅れを抜くのが大変だった」。ブレーキングもコーナリングも、無理ができないフラストレーションがたまる状況の中で、可夢偉は、ジリジリと差を詰めている8 アウディR18 e-toron quattroの無言の圧力を背後に感じながら最後の45分を走った。
最終ラップ。可夢偉(右)とデュバル(左)。
◆10秒ほどの差が、ジワジワ縮まり、残り10分のところで、デュバルの8 アウディR18 e-toron quattroがセクター1で最速タイムを記録。小林可夢偉との差は4.2秒に縮まっていた。
◆しかし、デュバルも周回遅れの処理に手間取っていた。残り6分で差は4.3秒。可夢偉とデュバルの奮闘が観客にも伝わって、日が傾いた富士スピードウェイは、緊迫の空気に包まれた。
◆残り3分、さらに可夢偉のタイヤが限界にきたか、差は1.3秒に縮まり、ルマンの”3分の悲劇”が思い起こされた。土壇場で逆転されてしまうのか。しかし、可夢偉は、しのぎきった。1位と2位の差は、1.4秒だった。
◆人間力が出たいい勝ち方だった。
世界選手権初優勝。2009年のGP2アジア以来の「もう不感症」になるほど久々の勝利。
完璧な仕事をスーパーフォーミュラもお願いします!!
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photo by [STINGER]