映画『RUSH』–レースファンとして80点、人として120点!!
主役の二人。マクラーレンM23に腰掛けるハント役のクリス・ヘルムズワースとラウダ役のダニエル・ブリュール
来年2月に公開される映画『ラッシュ—プライドと友情』を観た。「あなたの生涯の一本を塗り替える」というキャッチ通りの素晴らしい映画だった。
モーターレーシングを題材にした映画は二つに分類できる。面白い映画とつまらない映画だ。前者に入る映画は、残念ながらそう多くない。三船敏郎が登場する、F1GPを描いた『グランプリ』、スティーブ・マックィーン主演の『栄光のルマン』など、諸手を上げて賛同できる作品は限られたものだが、『ラッシュ』は、間違いくそこに続く名作と言っていい。
1976年のF1GPを舞台にする物語に登場人する多くのドライバーは、よくぞここまで、と思うほど、実在のドライバーに似た役者をそろえている。たとえばドライバーズミーティングに参加するドライバーの中から、立派な髭に見覚えのあるハラルド・アートルを発見するというマニアックな楽しみ方もできる。
ただし、レースファンとして観た場合、『グランプリ』や『栄光のルマン』に比べると若干のもの足らなさを感じた。レースの描写は、もう少しスピード感がほしいと思った。F1のエンジン音はもっと甲高い、とも。しかし、122分の物語りの途中から、もしかするとそのことさえ、ロン・ハワード監督は計算しているかもしれないと思い始めた。監督の狙いは、F1GPという舞台そのものを伝えることではなく、まさに邦題のサブタイトルにある”プライドと友情”の素晴らしさなのだった。だから、あえてF1の描写は、インパクトを抑えて表現されたのではないか。
その効果もあって、水と油、破天荒と理詰め、プレイボーイと堅物、そして敵と味方、という真反対の世界の住人としてワールドチャンピオンを競っていたニキ・ラウダとジェイムズ・ハントが、やがてひとつに溶け合っていく。
1976年F1GP世界選手権第10戦ドイツGP。チャンピオンシップ争いを、大きくリードしていたニキ・ラウダは、コースアウトしてマシンが炎上、選手生命を絶たれたと誰もが思う瀕死の重傷を負う。しかしラウダは、ひどい事故から僅か一月半、過酷な治療を乗り越えて不死鳥のごとくに復帰。破天荒だが才能溢れるライバルのハントに、サーキットで再開する。
ウラダがアクシデントに見舞われたドイツGPは、ひどい雨の中で行なわれた。スタート前にドライバーが招集され、ラウダは中止を主張。しかしハントは決行を唱え、そしてアクシデントは発生した。
ハントは、レース強行を主張した自分を責め、「レース中止の意見に反対したことを後悔している」、とラウダに謝罪した。破天荒なイメージを翻すハントのその言葉に、ラウダは、相手の目をまっすぐに見て、「ここに戻したのもキミだ」と答えた。ハントの意見がなければ事故は起きなかったかもしれないが、ライバルのハントを倒したい一心が、残酷を究めた厳しい治療を乗り越えさせた。ここから二人は急速に接近していく。友情も、そしてポイントも。
富士スピードウェイを舞台に、初めて日本で行なわれた日本GPはタイトルマッチの場を迎えた。富士スピードウェイは、ドイツGPを思い出させる強い雨が降っていた。激しさが収まらない雨の中で、ラウダはスタート直後にレースを自らの意志で棄権した。シリーズ後半、巻き返していたハントが3位に食い込んで逆転チャンピオンを決めた。
しかし、映画は、そこで終わるのではなかった。そこまでの展開は、感動のエンディングへの序章にすぎなかった。
『ラッシュ—プライドと友情』は、2014年2月 TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショーされる。
◆タイトル:『ラッシュ—プライドと友情』(原題=『RUSH』)
◆監督:ロン・ハワード(『バックドラフト』『遙かなる大地へ』『アポロ13』『ビューティフル・マインド』『ダ・ヴィンチ・コード』『天使と悪魔』『フロスト×ニクソン』)
◆脚本:ピーター・モーガン(『クィーン』『ブーリン家の姉妹』『フロスト×ニクソン』)
◆出演:クリス・ヘルムズワース(『アベンジャーズ』)
ダニエル:ブリュール(『イングロリアス・バスターズ』)
オリヴィア・ワイルド(『トロン:レガシー』)
アレクサンドラ・マリア・ララ(『愛を読むひと』)
◆配給:GAGA(ギャガ)
※ラウダ登場、『ラッシュ』会見
photo by GAGA
[STINGER]山口正己