[STINGER-magazine]
◆3週間ぶりに成田を発つ前に[STINGER-magazine]の入稿作業が終わった。ちょっと変わった本になる。
◆読者像? そんなもん”自分”に決まっている。←という言い方は生意気だけれど、自分が大事にしているものを伝えるのが編集作業だ。その大切なものを感じてくれる人、それが読者だから、まずは自分を読者対象に置いて考えるのが正しいと思う。
◆そもそも”市場調査”とか”ユーザーのニーズ”という言葉は、とってもありがたいけれど、いまいちしっくりしない気がする。ユーザビリティという言葉じたい、なんだか作られてイメージで、温かみがない。代理店が予算を少しでも多くするための手段にしか見えなかったりする。
◆たとえば、クラウンという某社のクルマがある。常に売れているので開発予算を増やすことかできて、だからとてもいいクルマになった。モデルチェンジの度にクォリティが高くなっていて、今では400万円台で買える世界中のあらゆる市販車の中で、揺るぎない最高の性能と使い勝手がある。これは間違いない。
◆しかし、それは尊敬されるクルマ、つまり、開発者自信が本当にほしいと思っているクルマなのかと考えると、即座に「その通り!」とはいいにくい。それには理由がある。
◆以下、数代前のとあるクラウンのデザイナーとの対話。
デザイナー お客様のニーズを徹底的に追求しました。
Y とてもよくできていると思います。でも、これ、本当にあなたがほしいと思って作ったんですか?
デザイナー は?
Y たとえば、シートの色に臙脂色があります。エンジ、と入力と入力したらそう変換されたんですけど、こんな字になるのか。
デザイナー は?
Y いや、独り言です。で、その臙脂色ですけど、田舎の成り金な方、応接間には虎の敷皮がこれ見よがしに置かれていて、木の根っこを磨いた仰々しいオブジェとか、不釣り合いな”舶来”という商標を貼りっぱなしのイタリア製の家具が置かれた趣味の悪い応接間が浮かびます。この色、あなたの趣味ですかぁ?
デザイナー いや、そのぉ。
Y 多分あなたご自身は、この色を買いませんよね。でもニーズという営業の意見があるので、まぁ、仕方なしにこの色が用意されていると思います。色はひとつの例ですが、このクルマ全体にそういう匂いを感じてしまうのです。いつかはクラウン、といいますけど、”いけてもクラウン”みたいな。
デザイナー氏には、私の言っていることが伝わらなかった。
◆尊敬されるクルマとは、”自分が作りたいクルマ”だと思う。もちろん、だから予算をいくらかけてもいい、という話にはならない。だが、順番として、最初に大事なのは「売れるクルマ」ではなくて、「自分がほしくなるクルマ」であるべきと思う。全部のクルマがそれでは商売にならない、という意見もあるが、言たいのは”商売になればいいのか?”ということだ。
◆自分の作りたいクルマを、いかにして予算にあわせて実現できるか。これが、実はビジネス手腕と呼ばれるものであって、予算を最初に考えて、コジンマリと上手な辻合わせをすることではないと思う。ということで少し(大分だが)遠回りしたけれど、読者像は自分だとかいたのはそういう結論に到達いたしました。ご静聴ありがとうございました(笑)。
◆しかし、実を言うと、自分は他の誰のものより自分の正直な感想が見える(当たり前か)ので、これで大丈夫かな、という部分がもちろんあって、だから発売の9月25日に手にした読者や関係者の反応が少しだけ怖いところがある。けれど、それはそのまま、”いままでと違う”というところに根ざしていて、そうであるなら当初からの目標である「いままでにない」「差別化された」「ブランドとしてのF1を新たな視点で伝える」ということが達成できた証拠でもある(と思いたい)。お~、こんな形があったなぁと、誰でも知っているけれど、ちょっと驚ける本になったと思う。もちろん、驚いた後で、「いいねぇ」と喜んでいただかなくちゃ意味がないけれど。
◆キャッチは「compact@impact」小さいけれどどきっとする。日本GPのちょっと前に書店に並ぶ[STINGER-magazine]をお楽しみに。是非、”いいねぇ”と思ってお買い求めくださいませm(__)m。1260円(税込み)です。